| ::::
企 画 趣 旨 ::::
♪月の沙漠を はるばると 旅の駱駝がゆきました……
世代を超えて愛され続け、歌い継がれている抒情歌「月の沙漠」は、加藤まさをが大正12年に少女雑誌「少女倶楽部」3月号に絵と共に発表した詩に、後に佐々木すぐるが曲をつけたものです。(加藤まさをは岩石の固さを連想させる「砂漠」ではなく、みずみずしさをイメージして「沙漠」という表記にこだわっていました)
加藤まさを(1897〜1977)は、大正から昭和にかけて主に少女雑誌で活躍した挿絵画家です。高畠華宵・竹久夢二・蕗谷虹児・須藤しげる・中原淳一などの少女のセンチメンタルでメランコリックな情感を描いた大正ロマンの画家たちは、別名「抒情画家」とも呼ばれていますが、彼らの中でも加藤まさをは、少女期独特の抒情的感性をみずみずしさと清純さで包んで表現し、柔和でしっとりとした少女像を描きました。それは「抒情的」という言葉が他のどの画家よりも最もぴったりとくる世界です。
加藤まさをは静岡県藤枝市出身で、立教大学英文学科在学中から19世紀の英国イラストレーター(エドマン・デュラックなど)に興味をもち、独学で絵を描き始めます。同じく在学中には抒情画や童話画集(『カナリアの墓』『合歓の揺籃』)を発表して注目され、その後「少女倶楽部」「少女画報」「令女界」など数多くの少女雑誌に挿絵や詩画譜などを描いて人気を博しました。また自ら書いた小説や詩に絵を添えて画集として出版するなど、抒情画と叙情詩と少女小説の全てを一体化したマルチな作家活動を行いました。こうした全盛期の活躍にもかかわらず、加藤まさをの生涯や画業について、現在でははほとんど知られておらず、「月の沙漠」の作者としてのみ、その名前が語り継がれているのが現状と思われます。
今回の展覧会では、高畠華宵と加藤まさをの画業を改めて見直し、作品のテーマ性、場面設定、描法など様々な視点から比較考察を行います。二人の作品やそれらが受容された背景には、当時の少女文化とそれをとりまく時代風潮が複雑にからみあっていますが、「両性具有的で妖艶な華宵世界」と「純和風でメランコリックなまさを世界」が、なぜ当時の少女文化の中心となり得たのか、華宵とまさをの世界を通して<近代日本の感情史>の一部をご覧頂ければ幸いです。
|